第37章 犬に噛まれたと思え

「……栞」

中野航平の声が喉で詰まった。照明の下、きらりと光るダイヤの指輪が、彼の掌に載っている。薬指にはめているものと同じ意匠――かつて二人のために作られた指輪だった。

彼女が戻ってきたのは、中野蓮のためじゃない。

この二つを、面と向かって返すためだ。

その瞬間、中野航平は悟ってしまった。もう長谷川栞を引き留められない、と。心臓がきゅっと縮み、鈍い痛みがじわじわ広がる。

元の持ち主へ返し終えると、長谷川栞は踵を返した。

だが、服の裾が小さな手に引かれる。

振り返ると――中野蓮が、涙でぐしゃぐしゃの顔をしていた。

「ママ、行っちゃだめ……やだぁ、やだぁ……!」

喉が裂けるほ...

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